【ネタバレ考察】映画・ラストマイル 2.7m/s→0の暗号に込められた意味とは?

こんにちは!らいむら先生です。

今回は映画・ラストマイルの考察記事です。※ネタバレ注意!

ラストマイルは、2024.8.23に公開された、満島ひかりさん主演のサスペンス映画です。世界規模のECサイトが運営する物流センターを舞台に、現代資本主義や利便性の裏側にある、労働環境や社会構造の闇について切り込んだ内容になっています。

めっちゃ面白かった!

2時間あっという間でした!

この映画から、解釈が分かれそうな点をピックアップして、私の意見をご紹介します。

完全ネタバレになりますので、未視聴の方はご注意ください!

ロッカーの暗号「2.7m/s→0、70kg」の解釈

冒頭から出てくる「2.7m/s→0、70kg」の暗号は、物語終盤に向けて重要な意味をもっていました。ここでは、この暗号の私なりの解釈を述べた後に、そう考える根拠となるシーンを列挙していきます。

私の解釈

すべてが数値化された巨大テック企業・DAIRY FASTでは、「Custmer Centric」という名の利益至上主義のもと、常にベルトコンベアが動き続けていました。

その中で、山崎佑は責任感のあるまじめな人間でした。

彼は過酷な労働環境の中、最大の繁忙期であるブラックフライデーを前に、物流センター長としての責任や数字のプレッシャーに押しつぶされ、精神的に限界を迎えていました。

彼はこの重圧から解放されたかった。

「明日からのブラックフライデーが怖い。」

ベルトコンベアは明日も2.7m/sで動き続ける。

どうすればベルトコンベアを止められるだろう?

どうすれば稼働率から解放されるのだろう?

そうだ、70kgのものを載せればいい。

70kgだったら、俺が飛び乗ればいい。いける!

やった、これでゼロになれば、俺は数字から、ブラックフライデーから、全てから解放される!―。

この暗号は、ベルトコンベアが止まる条件を示しただけのものにも見えますが、物流センター長を経験した者が見れば、山崎佑の考えていたことがわかる。

彼はただ、ベルトコンベアを止めようとしたのだ。自殺をしたかったわけではない。彼はただただ、ゼロになりたかったのだ。

加えて、この後すぐにベルトコンベアが動き始めた様を山崎佑が見届けたことから、「物理的には70kgで止められるが、このベルトコンベアは1人の人間には止められない。どうすることもできない。」という不条理を示していると考えられます。

まとめると、私の解釈のポイントは以下の2つです。

  • 山崎佑は、ただただ、ゼロになりたかった
  • 物理的には70kgで止まる、でも70kg(=1人の人間)では止められない不条理

ここからは、私なりの解釈の元とした情報について、解説していきます。

山崎佑の表情・搬送後の言葉

山崎佑がロッカーに暗号を書いてた直後。

どこか希望に満ちたような表情で、彼はためらうことなく3Fから飛び降りました。

それは、人生に絶望してこれから死のうとする人にはとても見えないものでした。

また、山崎佑が眠る病院の医師は、警察からの事情聴取の際、「彼は自殺でも他殺でもないと思う」という旨の発言をしています。

その根拠は、山崎佑が搬送されて間もない頃、ポロっと「馬鹿なことをした」と言っていたのを聞いたからです。

「ベルトコンベアを止めるために、何も自分が飛び降りる必要はなかったのに」という意図で発したのではないかと推察します。

高速道路のジャンクション

物語最初と最後に、高速道路のジャンクションを上空から写したシーンがあります。途中から高速道路が0と1の数字に代わって表されます

このシーンからは「この世界は数字に支配されている」というメッセージが伝わってきます。

DAIRY FASTはもちろん、物流業界すべてがつながっていて、すべてが数字に支配されたものであることを示しているのだと思います。

序盤:効率主義

作品の序盤では、DAIRY FASTの効率主義・利益至上主義が強調されるシーンが多く出てきます。

社員証・ブルーパスとホワイトパスは、まんまブルーカラー(肉体労働者)ホワイトカラー(頭脳労働者)の対比でした。

Custmer Centricというマジックワードの名のもと、センターでは、労働者が大量の荷物を迅速に処理するため、人々が機械のように働いていました。

センター内はあらゆるものが数字で管理されています。

最重要指標の稼働率は、ことあるごとに、でかでかと表示。

「この社会における有能さ・価値の基準は、いかにコストを下げるか、いかに稼働率を下げず荷物をさばけるか」、そういったことを示すシーンが多くみられました。

舟渡エレナも最初はそちらの側に居るようでした。

しかし、物語の中盤に大きな転換がありました。それこそが山崎佑のメッセージだったのです。

中盤:数字のもつ意味

舟渡エレナは、山崎佑が書いたロッカーの暗号について、次のように説明しました。

  • 2.7m/s: ベルトコンベアの速度
  • 70kg: ベルトコンベアの耐荷重

ベルトコンベアは、70kgを超えると停止するように設計されていました。

また、どちらの数字も、「人の早歩き」「成人男性の体重」といった、人を用いた表現がされていました。

これは「ベルトコンベアは”物理的には”人の力で止めることができる」ということかな、と思います。

しかし、物理的には止められるはずのベルトコンベアは、山崎佑が飛び込んだ後、すぐに再稼働しました

「死んでも止めるな!」五十嵐道元の声が響いていました。

山崎佑は排除され、センターの稼働率もすぐに回復してしまったのです。

このことは「1人の力で末端のコンベアを0にできても、社会全体の大きな流れは、1人の力ではゼロにはできない」ことを示しているのだと思います。

※山崎佑を演じた中村倫也さんの身長は170cm。彼は痩せ型であることから、実際には55~60kg程度の体重であると思われます。

終盤:舟渡エレナの過去

作品の終盤では、舟渡エレナの過去とともに、行き過ぎた効率主義の副作用・いびつな現状に向き合うことになります。

彼女自身も、当初はやりがいをもって働いていたものの、やがてブラックフライデーが怖くなり、休職するほどまで追い詰められていたことが明らかになります。

そんな過去をもつ舟渡エレナだからこそ、ロッカーの暗号を見てすぐに、

  • 山崎佑が望んでいたこと、
  • 筧まりかが望んでいたこと、
  • その両方が同じであること

に気づきました。

2人とも望んでいたのは、「0」にすること。

すなわち、ベルトコンベアを止めること。

もっと言えば、デリファスを中心とした物流業界が生み続けている悲劇を止めることです。

そして彼女は、1人ではなく、もっともっと大勢の力によって、0の世界に到達し、現状を打破しました。

エンドロール

映画のエンドロールの最後に、心のケアに関する一文がありました。今まさに山崎佑のような過酷な状況にいる方へ、専門機関に相談するよう勧めるメッセージです。

本当にしんどい時、自分1人では冷静な判断ができないものです。

「山崎佑は、自分がベルトコンベアに飛び込むことで、会社に現状を訴えかけたかった」という意見は、私はちがうと思っています。

そこまで考える余裕は、もはや彼にはなかったはず。

「ただ、解放されたかった」

「ただ、ゼロにしたかった」

こういう考えだったと思います。

昔の話ですが、私自身、ハードに働いていた頃がありました。常に動悸がして、心臓が痛い。会社の繁忙期の真っただ中、責任ある仕事を任され、1年で最もプレッシャーのかかる時期。ある日、私は家のベッドから立ち上がることができなくなりました。1人でただ涙を流していました。幸い、私は家族に助けてもらいましたが、ああいった状況において、1人で冷静な判断などできるわけがないと思います。突然の自分語り、失礼しました。

なお、各自治体では、心の健康に関する相談窓口が開かれています。まずは相談を!

筧まりかが連続爆弾テロをした動機

続いて、筧まりかが連続爆弾テロを敢行した動機について考察します。

こちらはさらっと!

私の解釈

筧まりかが連続爆弾テロに走った目的は「恋人を事故に追いやった罪を世界に償わせること」だと考えます。

筧まりかは、舟渡エレナとの会話の中で「自分が犯した罪なら、私は償う。でも世界が犯した罪は、誰が償う?」といった旨の発言をしていました。

ここでいう「世界」とは、デリファスを中心とした業界全体、デリファス・羊急便・委託ドライバー・消費者を含むすべてを指していると考えられます。

その中でも特に、山崎佑と関係の深い西武蔵野ロジスティクスセンターの関係者は、罪を償うべきだ。

もう稼働しないでほしい。

そのような動機だったのではないかと思います。

だからこそ、最初の爆発は注目度を集める必要があった。

そのために、

  • ブラックフライデーにあわせて、
  • あらかじめ偽の広告を用意しておき、
  • 注目度の高いデリフォンを使って、
  • 自らの命と引き換えに、
  • 派手な爆発事故を起こした。

また、爆弾により重傷者はたくさん出ましたが、死者は里中(=筧まりか)だけでした。

至近距離で爆発しても即死するような威力ではなく、殺傷能力は決して高くなかった。

つまり、誰かが死ぬことで罪を償ってほしいわけではなかった

暴走するベルトコンベアを、社会の流れを止めたかった。

そのために、自らが犠牲になることを選んだのだと思います。

美澄ミコトからは「そんな根性はいらない」と切り捨てられていました。

筧まりかが常人離れした精神状態であったことがわかります。

まとめ

今回は映画「ラストマイル」について、私の解釈を紹介しました。

物語の最後も怒涛の情報で終わっていました。今回紹介したこと以外にも、何だったんだろう?と感じることがまだまだあります。

  • 真っ赤な服から赤のチェックになった舟渡エレナ
  • なぜ舟渡エレナはたこ焼きのおもちゃを開けた時に、爆弾だとわかった?
  • 最初は「全部が欲しい」、終盤では「白い手帳が欲しい」
  • ラストシーンでロッカーと現場を確認する五十嵐道元
  • 過労で死んでしまったというドライバーの「やっちゃん」
  • 主題歌・がらくた

うーん…もう1回見よう!笑

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